オーダーメード治療を目指す神戸三宮の菊地眼科です

コラム集  ステロイドと緑内障 2013.12

今回のコラムは「ステロイド治療の緑内障に対する光と陰」というお話です。 ステロイドは炎症を強く抑える働きがあり、内服、点滴のような全身的にも、軟膏、点眼のような局所的にも用いられています。 眼科ではぶどう膜炎や視神経炎などに内服や点滴として用いることがありますが、多くの場合点眼として用いられています。

緑内障に対しては炎症に引き続いて起こる続発緑内障というタイプに使用することがあります。 この緑内障では眼内の炎症が原因で眼圧上昇が起こっているため、ステロイド点眼で消炎し眼圧調整機能を正常化させる必要があるのです。

そのほかにも緑内障手術後の消炎目的で使用したりする緑内障管理に大切な薬なのですが、その一方で眼圧上昇という副作用が問題になることがあります。 もちろん誰にでも起こるわけではありませんが、このようにステロイド治療に反応して眼圧が高くなる方をステロイドレスポンダーと呼んでいます。 どうして眼圧があがるかはまだ完全には解明されていませんが、眼の中にたまっている房水を排出するところの流出抵抗の増大いわば排水管がつまり気味になって房水が抜けにくくなっているのが理由のようです。

どれぐらいの頻度でステロイドレスポンダーがいらっしゃるのかはよくわかっていません。ステロイド投与されている患者さんのほとんどは眼圧を測る機会がないからです。 内服よりも点眼で頻度が高いともいわれていますが、そもそも眼科では当然眼圧測定などの副作用のチェックはするわけで、他科で処方されたステロイドを使用している方よりステロイドレスポンダーを見つけやすいだけなのではないかと私は思っています。

一般的にはステロイドによる眼圧上昇は、ステロイド剤の強さ、投与経路(内服なのか点眼なのかなど)、頻度あるいは使用量などに依存するとされています。 つまり、強いステロイドを大量に長期間使用すると起こりやすくなります。眼圧上昇はステロイド使用開始後数週間で起こり始め、高くなる方は30-40mmHg程度(正常上限は21mmHg)までになることもあります。眼圧上昇を認めた時点でステロイドを中止すれば数週間でまた眼圧は低下します。ただ、ある程度の期間眼圧上昇が続いてしまうとステロイドを中止しても眼圧が高止まりしてしまうこともあります。 当院でも強いステロイド点眼薬を使うと眼圧があがる方がいらっしゃいますが、早期に中止していただくと眼圧はほとんどのケースで正常化します。

リスク要因としては開放隅角緑内障がある人、強度近視などいくつかのリスク要因が指摘はされていますが、どんな方がなるのかはっきりしたことはよくわかっていません。 ステロイドレスポンダーかどうかをステロイド使用以前に確認する方法はなく、ステロイドを使用したあとに眼圧があがるかどうか注意深く観察する以外にステロイドレスポンダーを見つけるのは不可能です。

以前のコラム「薬の注意書きにある「緑内障の方は医師と相談を」とは?」で取り上げたこととは話が少し違います。 そのコラムでは抗コリン作用を持つ薬が隅角の狭い眼に悪影響を及ぼすというお話をしました。隅角が狭くなければ何も問題はありませんし、使用前に大丈夫かどうかをチェックすることが出来ます。 しかし今回のステロイドの副作用は、眼の状態に関係なく、使ってみないと副作用が出るかどうかわからないのです。

自分がステロイドレスポンダーであることを知らずにステロイドを長期間使用した場合、自覚症状がほとんどないまま緑内障が進行してしまい、大きな視野欠損や最悪の場合失明に至る可能性があります。その一方でステロイドレスポンダーであることがわかっていてもどうしてもステロイド使用を中止できない方がいらっしゃいます。このような方は開放隅角緑内障に準じた治療になります。 ステロイド治療をある程度の期間受けておられる方は、念のため眼科の検診を受けられることをお勧めします。

追伸: 詳しくは以前のコラムを参照していただきたいのですが、眼圧の単位が血圧と同じmmHg(ミリメートル水銀柱)からパスカルと言う単位にH25.10.1から変更されるというお話をしました。 その後いろいろ不都合があることが理解されたようで、正式にこれからも眼圧の単位も血圧と同じようにmmHgを使って良いことになりました。 いくら国際標準だからといって、直感的に調子が良いのか悪いのかよくわからない数値を強制されることがなくなりひと安心です。