オーダーメード治療を目指す神戸三宮の菊地眼科です

コラム集  眼圧の単位 2011.09

「今日の眼圧は右が17、左が15でした。」などと緑内障をはじめとする眼圧を測定する必要のある患者さんにはほとんどの場合、数値を伝えております。「正常上限が21未満で、日本人の平均が15ぐらいです。」と患者さんの値が一般の人の中でどれぐらいの高さなのかも参考にお伝えしておりますが、単位をお伝えすることはまずありません。単位はmmHg(ミリメートル水銀柱)といいます。血圧も同じ単位なのでなじみのある方も多いと思います。

国際的にもそして日本においても、長さや大きさ、圧力などの単位を国際基準に合わせたSI単位に変更していこうということになっています。たとえば私が学生の頃、天気図で出てくる台風などの気圧はミリバールという単位で表されていました。これがいつの間にかヘクトパスカルという国際単位に変わって今に至ります。逆にこの流れに抵抗しているのがアメリカで、長さはメートルではなくインチ、重さはキログラムではなくポンド、速度は時速・・kmではなくて時速・・マイル、温度も摂氏ではなくて華氏です。そしてそれをかたくなに変えようとしません。

これを血圧に当てはめて考えて見るとアメリカが単位の変更にどうして抵抗しているのかが見えてきます。「今日は上が130下が70でしたね」という内科のかかりつけの先生との会話で見てみましょう。これは「今日の血圧は上が130mmHg、下が70mmHgでしたね」となります。
先ほどのミリバールとヘクトパスカルは1ミリバール=1ヘクトパスカルなので、わたしたちにとってはよくわからない単位の名前が変わっただけで数字の大きさは変わりません。したがって、たとえば台風の強さは単位が変わっても直感的にわかります。ところが血圧の場合はそうはいきません。1 mmHg=133.32パスカルだそうなので(間違っていれば教えてください)「今日の血圧は上が17332パスカル、下が9332パスカルでしたね」になり、高いのか低いのかさっぱりわかりません。直感的に慣れ親しんだ数字でないと日常の生活の役に立ちません。まさにこれが私が留学して困ったことで、アメリカが国際単位の採用に抵抗する原因です。

「単位を国際基準に合わせたSI単位に変更していこうということになっています」と上で書きましたが、実は変更するように計量法という法律で促されているのです。ただ、SI単位の存在しないものや、変更すると大きな混乱が予想されるような単位については例外的にその単位を用いてもよいとされています。そのひとつが血圧を測るときのmmHgです。したがって、血圧はこれからもmmHgで表されます。では眼圧を測るのも同じ単位を使っているのでいいじゃないかというと実はそうではありません。「生体内の圧力の計量については、非SI単位系であるmmHg等を永久的とみなすのではなく、一定の猶予期間を置いて、SI単位系への移行を進めていくことが適切と考えられています。生体内の圧力の計量について、平成25年9月30日まで水銀柱ミリメートル等を法定計量単位とみなします。」と記されています。国際的にも眼科学会ではmmHgが採用されているため、日本だけ先行して変更になると混乱しそうです。
「今日の眼圧は右が17、左が15でした。」が「今日の眼圧は右が2266、左が2000でした。」になります。なんだか話している私も訳がわからなくなりそうですが、さてどうなることやら・・・。