コラム集 「選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)」2020.11
緑内障治療法として、選択的レーザー線維柱帯形成術(selective laser trabeculoplasty,SLT)は以前からありました。 マイクロパルスレーザー(図 赤線)を線維柱帯(図 矢印)に照射し、房水流出抵抗を減らすことで眼圧を下げる治療です。 緑内障点眼薬の中にも房水流出抵抗を減らす目的で使用されているものがあります。
以前のコラム「3た論法」や「EBMとCOI」でもお話しましたが、 証拠(エビデンス)に基づく医療(evidence-based medicine,EBM )の考え方を重視してできたのが緑内障診療ガイドライン第4版です。 その中で、正常眼圧緑内障・開放隅角緑内障では薬物(点眼)療法が第一選択で、点眼治療で不十分であったり、継続が難しい時にSLTを考慮する。 正常眼圧緑内障ではSLTの眼圧下降効果は小さいと考えられると記載されています。
SLTは比較的リスクの低い治療法ですが、出血や炎症、一過性の眼圧上昇などのリスクは低いながらもあります。 問題は治療費が高額なことと、無効の方がいらっしゃることです。 費用はSLT治療だけで、1割負担の方で約1万円、3割負担の方で約3万円かかります。 SLTはある程度の眼圧下降効果が認められる方がいる一方で、無効な方も残念ながらいらっしゃいます。有効率は70%程度です。 その効果も持続する方もいらっしゃれば比較的短期間に効果がなくなってしまう方もいらっしゃいます。 初回治療で効果があった方であれば、効果が弱くなってきたときに再度SLT治療することで眼圧下降効果の回復を図ることは可能です。
近年新しい作用機序を持つ点眼薬がいくつも発売されました。 治療薬の選択肢が広がったことは眼科医として本当にありがたいことなのですが、1剤で効果不十分なら2剤3剤4剤と多剤併用療法をお願いする患者さんが増えてきました。 それに伴い、薬や添加物の副作用でいろいろな不快な症状が出る頻度も増えてしまっています。 ひどくなるとすべての点眼薬をある程度の期間中止しないと回復しません。
SLTを導入してみようかと思ったのは、多剤併用患者さんの点眼数を1つでも少なくできないか、 忙しくてさし忘れの多い方や目の表面がデリケートで点眼薬を受け付けない方に対応できないかなどを考えた結果です。 すべての人に勧める治療法ではありませんし、すべての人に有効ということではありません。