コラム集 インフォームドコンセント、インフォームドチョイス、インフォームドディシジョン 2023.03
昔は医師が十分な病状や治療法の説明をせずに上から目線で、一方的に方針を決定していた時期が続いていたそうです。 今では患者さんがこれから行うことの内容の説明を受け、納得をしたうえで同意をするという、インフォームドコンセントということが行われています。 最近ではそれに加え、インフォームドチョイスやインフォームドディシジョンという概念が広がってきています。
インフォームドチョイスは「説明と選択」インフォームドディシジョンは「説明と決定」と訳されており、文字通り病状や治療方針の説明を受けたうえで自己で選択し、決定することです。 選択肢が1つしかない治療法であれば選択の余地はありませんが、それを受けないという決定を下すことはできます。 ある女優さんに網膜剝離が見つかり、手術を受けないと失明すると宣告されました。その方は手術を受けずその後に予想される結果を受け入れるという決定を下されました。 医師としてはぜひ手術を受けてくださいという思いなのですが、これもインフォームドディシジョンの1つといえます。
わたしも白内障に関してはインフォームドチョイスを患者さんにお願いすることがあります。 矯正視力がコンスタントに1.0未満になったら、白内障手術を基本的には勧めています。 ただ、そこまでに至ってない状況では、このまま様子を見る、白内障点眼を試してみる、思い切って手術を決心するという3択を提案することがあります。 その方の年齢、ライフスタイル、体調などにあわせてどれを選択するのかを決めていただいています。 また、視力低下が著しく白内障手術を受けていただきたいのに、手術を受けたくないという選択をされる方もいらっしゃいます。 このようなケースでは白内障手術のリスクはそれほど高くないこと、見えにくいことで段差に気づかず転倒し、それをきっかけに体調不良を起こすリスクがあること、 視力低下を放置すると認知症のリスクが上がることなどをお話ししています。 それでも手術をしないという決断をされるなら、それを尊重してはいます。ただその後も、機を見て手術を受けていただけないかときどきお願いすることになります。
緑内障患者さんにもインフォームドチョイスをお願いすることがあります。 白内障のように手術を受けていただければ視機能を取り戻せる病気ではないので、選択枝は多くありません。 例えばいったん点眼を中止して経過観察するという選択肢と、これまで通りに点眼を継続するという選択肢を提示することがあります。 これは長く緑内障点眼を続けていただいていて視野検査の結果が変わらず、眼圧が十分に低い患者さんに対してや、 白内障手術を受けた後の眼圧が緑内障点眼なしで手術以前と同じぐらいまで下がっているような患者さんに対してです。 もちろん総合的に判断して、同じような状況でもインフォームドチョイスを提示できる人とできない人がいらっしゃいます。
インフォームドコンセント、インフォームドチョイス、インフォームドディシジョンが、患者さんのQOV(quality of vision)、QOL(quality of life)の向上に少しでも役立てたらいいなと思っています。