コラム集 病的近視 2017.05
メガネなどで視力矯正する近視、遠視、乱視などは屈折異常と呼ばれています。 程度を表す単位はディオプター(またはディオプトリー、記号はD)です。近視はマイナスレンズ、遠視はプラスレンズで矯正します。 近視の場合は矯正に必要なレンズのマイナスの数字が大きいほど、例えば-3Dより-10Dのほうが近視が強いことを意味します。 強度近視とは-6D以上の近視をさします。
強度近視だから病的であるということはないのですが、近視が強いほど眼軸長が長くなります。 眼軸長とは角膜(黒目)から網膜(フィルムに当たる組織)までの距離で、目の奥行きを表しています(図1)。 眼軸長が長くなるにつれて網膜、脈絡膜は引っ張り伸ばされるので薄くなってしまいます。 また、視神経乳頭という視神経や網膜血管の出入り口が変形してしまいます。 病的近視とは、このような見た目や形の変化だけではなくそれにより機能障害が生じている状態です。
病的近視による主なトラブルを以下に示します。 症状としては視力低下、変視症(ゆがんて見える)、視野欠損(視野の一部に見えないところができる、見たい真ん中が暗いなど)などが主です。
1.網脈絡膜萎縮
網膜や脈絡膜が薄くなりすぎてフィルムとしての機能を維持できていない状態です。 正常の眼底(図2)に比べ、網膜が薄いためその下にある脈絡膜の血管が透けて見えて(図3:写真全体にある赤黒いマスクメロンのような網目模様)、 その脈絡膜も薄くなるとそのさらに下にある強膜までが白く透けて見えています(図4:矢印)。
2.黄斑変性(黄斑部新生血管)
黄斑部の正常な層構造が維持できず、脈絡膜側から病的な血管が網膜に入り込んでそこで出血を起こし、黄斑機能の低下につながっている状態です。
3.黄斑での網膜剥離や網膜分離
網膜が薄く引っ張り伸ばされているので、その力により網膜が脈絡膜から剥離したり、網膜が内層と外層に分離してスペースができてしまったりしている状態です。 当然フィルムとしての機能は低下してしまいます。
4.緑内障・視神経症
視神経乳頭が変形しているため、そこを通る視神経に通過障害が起こり、視神経萎縮を起こすことがあります(図3:矢印)。 また、近視が強い方は緑内障になるリスクが通常より高いといわれています。
学童期の近視の進む速さが以前より早くなっているような印象があります。 パソコン・スマホ・ゲーム機などの電子機器類使用の低年齢化、目の生理的限界を超えた長時間使用など目に対する生活環境の悪化が一因なのは間違いないと思います。 適度な使用時間と、適切なタイミングでの目の休憩を意識して生活指導していただければと思います。