オーダーメード治療を目指す神戸三宮の菊地眼科です

コラム集  OCT 黄斑上膜 2011.05

今回は黄斑上膜についてお話しします。フィルムにあたる網膜の中心部が黄斑で、その上に薄いセロファンのような膜が張ってくるためこのように呼ばれています。 ただ、黄斑部のそばに出来る(つまり黄斑部には膜として張ってない)こともあるため、正式には網膜前膜といいます。通り名としては黄斑上膜がよく使われています。 症状としては視力低下や物がゆがんで見える(変視症)がよく起こります。物の大きさが違って見えたり、色が違って見えたりすることもあります。

この黄斑上膜が出来る原因ですが、眼の病気に続いておこる続発性と、老化による特発性があります。特発性が多いのですが、 老化だからといって皆さんに出来るというわけではもちろんありません。続発性におこるときの原因疾患としては、網膜剥離や網膜裂孔などで網膜が裂けたり、 糖尿病網膜症や、網膜静脈閉塞症などの網膜虚血疾患、あるいはぶどう膜炎などの眼の中の炎症疾患に引き続いておこったりすることがあります。 そのため、黄斑上膜を見たらそのような疾患がないかどうかのチェックが必要です。

図1は黄斑上膜がある眼の眼底写真です。黄斑部(矢印)に明るいきらきらした、そして少ししわの寄った膜が張っています。


図2は黄斑上膜のごく軽いものがあるOCT像です。網膜の層構造もしっかり保たれており、基本的に正常です。 ただ、矢印のところの網膜表面にわずかですが白い筋が見え、これが膜の断面をとらえたものです。これぐらいなら全く心配ありません。


  

図3はさらに膜(矢印)が広範囲かつ分厚く張ったときのOCT像です。膜がぴんと張ることにより、図2で見られた中心部のくぼみ(中心窩)が消失しており、網膜の層構造も乱れています。 これぐらいになると視力低下や変視症を自覚する方がいらっしゃいます。図4はさらに後部硝子体膜(矢印)とつながって膜とともに網膜も引っ張られているタイプです。 このようなタイプの場合はほとんどの方が視力低下や変視症を訴えられます。

  

図5と図6はちょっと変わった黄斑上膜の例で、偽黄斑円孔と呼ばれています。図5の眼底写真のように黄斑部に穴が開いたように一見見えます(矢印)。 ところがOCTで見てみますと図6のように矢印の部分で膜は終わっており、中心窩の部分だけ膜が張っていない状態です。 どうしてそのようなことがおこるのかはわかっていませんが、黄斑上膜に穴が空いているだけで、網膜に穴が空いているわけではないのです。 そのため、視力は良好で変視症も訴えない方も多くいらっしゃいます。黄斑円孔については別のコラムでお話ししようと思います。

さて、この病気の治療法ですが手術をして膜を切除する以外にはありません。 従って、症状が軽い場合は経過観察のみとなります。手術をするかどうかに関しては、視力、変視症の程度、患者さんのライフスタイルなどを考慮することになります。 失明する病気ではなく、たいていの場合はとてもゆっくりと進行する(あるいはある程度のところで進行が停止する)病気のため、 患者さんの希望がなければどうしても手術しなければならないというわけではありません。 せっかく黄斑上膜を手術で切除しても、網膜の層構造の乱れがあまり改善しないため、変視症があまりよくならなかったり視力が思うように回復しなかったりするケースもあります。 手術を受けていただくかどうかを判断する私たちにとっても悩ましい病気です。