テーラーメイド治療を目指す神戸三宮の菊地眼科です

コラム集 緑内障と運転免許証 2020.07

高齢者の運転では認知症に加え、緑内障をはじめとする視野欠損もまた大きな問題です。 後期高齢者の運転免許講習に視野検査もあるのですが、水平方向のみの簡易検査なので正確には測定することはできませんし、結果が悪くても免許更新できないわけではありません。

緑内障は視力低下が起こる前に視野欠損、つまり見えないところが徐々に広がっていく病気です。 初期では自覚症状はありません。 両眼で生活しているとある程度進行しても気づかないことも多い、まさに忍び寄ってくる病気です。 40歳以上で5%、80歳以上になると10%の方が緑内障患者であるという統計もあり、決してめずらしい病気ではありません。


自動車運転免許証の視力に関する条件としては、

(1)両眼で0.7以上、かつ片眼でそれぞれ0.3以上

(2)片眼の視力が0.3未満の場合は、他眼の視力が0.7以上でかつ視野が左右150度以上

ほとんどの方は(1)に当てはまるため視野検査を受けることはありません。 疫学調査では緑内障患者の90%が自分が緑内障だと気づいておらず無治療のままだそうです。 視野欠損があることに気づかずに運転し、歩行者や標識などを見落としてしまい事故につながっているケースがあるのではと指摘されています。 上方に視野欠損があれば信号や標識を見落としやすくなり、下方にあればメータなどの計器類が見にくかったり、左右からの飛び出しにも気づきにくくなります。

大学と自動車メーカーが共同して視野狭窄患者さん用ドライビングシミュレータを開発しそれで実験をした結果、 やはり視野障害が強いほど事故リスクが高く、その原因が視野欠損と関連があると実証されたそうです。 進行した緑内障患者さんの自動車運転事故率は高いのですが、問題意識を持っている方も多く免許返納率が高いそうです。 また、初期~中期の緑内障患者さんの事故率は同世代の事故率と大きくは変わらないそうです。

無治療の緑内障は少しずつ進行し、視力は大きく変わらなくても視野欠損が広がってしまいます。 発症から時間が経つ、つまり高齢になればいつの間にかご本人が気づいていなくても運転に支障をきたすほど悪化しているかもしれません。 それを「年のせい」と思い込んでしまうと大変です。 後期高齢者の免許更新時にしっかりした視野検査をすることは時間的にも人的にも難しいと思いますが、無自覚な緑内障患者さんの治療のきっかけとしても検討する価値はあると思います。