オーダーメード治療を目指す神戸三宮の菊地眼科です

コラム集  物が2つに見える(複視) 2010.07

ものが二つに見える原因はいくつもあるのですが、重要なのは片目で見ても二重に見える(単眼性複視)か、それとも片目ずつでは一つに見えるのに両目で見たら二重に見える(両眼性複視)かどうかです。前者であれば眼そのものに問題があり、後者であれば眼をきょろきょろさせる筋肉やそれをコントロールする神経に問題がある可能性があります。

単眼性複視の原因で一番多いのが乱視です。乱視とは角膜がひずんでいることによりフィルムに相当する網膜にクリアな像が結べない状態です。そのほかにも白内障や、黄斑疾患などでも起こることがあります。

両眼性の複視の原因で一番多いのが斜視によるものです。斜視とは右目の左目が違う方向をむいてしまう状態です。そのためそれぞれの目に違う像が映るため頭の中でその絵を合成できずに2つに見えてしまいます。斜視にはいろいろなタイプがあるのですが、ここでは成人してから複視の原因となる斜視についてお話しします。

まず、目を動かす仕組みについて簡単におはなしします。目を動かすために6本の筋肉がくっついていてそれを3本の神経がコントロールしています。下の図は右眼を動かす筋肉を顔の右横側から見た図(図1)と頭の上から見た図(図2)です。それぞれの筋肉をコントロールする神経は担当が決まっていて、外直筋(①)が外転神経、上斜筋(⑥)が滑車神経、そのほか(上直筋(②)、内直筋(③)、下直筋(④)、下斜筋(⑤))が動眼神経です。⑧は眼瞼挙筋といってまぶたをつり上げる筋肉で、これも動眼神経がコントロールしています。また、⑦は上斜筋の引っ張る方向を変える滑車という組織です。(番号は両図に共通です)

外眼筋

ここでポイントになるのは、物をみる方向によって複視の程度が変わるかどうかです。

・目の向きで複視が変わらないのであれば、斜位という状態から斜視に移行した可能性が高くなります。人の目は本当にリラックスした状態、つまり目を動かす筋肉が全く働いていないような状態でも両目がまっすぐ向いている人はあまり多くなく、わずかにずれていることもしばしばです(私もそうです)。このような人は無意識のうちに両眼で同じところをみようとする力が働いて複視が起こることは通常ありません。この状態を斜位といいます。ただ、加齢、体調不良などでこの力が低下すると目が少しずれてしまったまま(斜視)になり複視を自覚してしまいます。このケースではどの方向を向いてもずれの角度や大きさは変わりません。

・目の向きで複視が変わるのであれば、精密検査が必要な場合があります。原因が目を動かす筋肉、あるいはコントロールしている神経に障害が起こった可能性があるからです。たとえば、右を向いたときに複視が強くなる場合では、右目の外直筋あるいは外転神経が障害を受け十分に右を向けなくなった可能性などいくつか原因が考えられます。そこでMRIなどを使って筋肉や神経の状態を調べる必要があります。もし、筋炎や腫瘍など原因疾患が見つかればその治療を行います。

もちろん実際の複視はこのような単純な話で片付かないことも多いのです。たとえば同じ人でも新聞を読むとき(近見時)には複視がでるのに遠くを見るとき(遠見時)には複視が起こらないなどいろいろ複雑なケースがあります。

斜視治療の基本としては、片眼遮蔽(片目を隠してしまってどちらか一方の目で生活することです)、プリズムメガネの装用、斜視手術などがあります。これはご本人の希望斜視の状況などによって判断することになります。両眼性複視で精密検査が必要な方は、診療所のレベルではなかなか対応が難しいことも多いので、大病院の専門家の診察を受けていただくことになります。