オーダーメード治療を目指す神戸三宮の菊地眼科です

コラム集 白内障と認知症 2014.09

白内障は図のようにカメラでレンズに当たる水晶体という組織が濁って視力低下を起こす病気です。 日本では考えられないことですが、発展途上国では白内障が失明原因の第一位です。というのも白内障手術を受ける機会も施設もないからです。 日本においては現在ではどれだけ快適な視機能を手術後に得ることができるかがテーマとなってきています。 健康保険がきかず自費診療にはなりますが多焦点眼内レンズも選択肢に加わっています。 これらについては以前のコラム「今昔物語白内障編」をご覧ください。

最近のトピックスとしてはトーリック眼内レンズの登場です。 眼内レンズは近視や遠視を矯正するだけだったのですが、このレンズは乱視もあわせて矯正することができる優れものです。 乱視の強い方はせっかく白内障手術を受けても乱視矯正のためのめがねが必要でした。それが完全ではないにせよ軽減できるのは朗報です。 この眼内レンズは健康保険が適用されるため、通常の白内障手術と同程度の費用ですみます。

かつては白内障手術は必ず入院が1-2週間必要でした。そのためもともと認知症のなかったあるいはとても軽かった方が、 入院生活がストレスとなり認知症を発症したり悪化したりするケースが特に80歳以上の方で時々起っていました。 入院して精神的に変調をきたしたため片目だけの手術で退院したり、 手術を受ける前に何もせず退院していただいた方も私が受け持たせていただいた患者さんにも実際いらっしゃいました。 つまり白内障手術(のための入院)が認知症に影響を及ぼすことがあるのですが、最近では日帰り手術を選択することでそれを回避できるようになりました。

また、手術可能だと判断した軽い認知症の方の場合でも、時に自分が手術を受けているということが認識できずに手術が始まってから動こうとしたり、 「もう帰る」と言って突然手術中に起き上がろうとする方までいらっしゃいました。 これらのケースではなんとか手術を終えることができましたが、術創が小さくて短時間の手術とはいえひやりとすることもまれにあります。

手術が無事終わっても認知症の方が術後管理をしっかりと行えるかどうかという問題があります。 例えば目を強くこすらない、目薬を指示された通りしっかりとさすといったことです。

このようにいくつかの問題点があるのですが、白内障手術を受けて視力が回復すると、 認知症の程度が改善したり、介護する側の負担が減ることがしばしば起こります。 残念ながらほとんど変わらない方もいらっしゃるのですが、何もせず寝たきりだった方が起きてテレビを見るようになったり、 無表情だった人がとても朗らかな表情を見せてくださるようになったりなど私も朗らかになるような経験をしました。 認知症関連の学会でもやはり術後に視力回復があると認知症の病状にいい影響を与えるということが発表されています。 たとえ認知症の患者さんであったとしても、QOL向上のために可能であれば前向きに検討したいと思っています。


追伸:先日世界初のiPS細胞を用いた網膜色素上皮細胞移植が神戸市の先端医療センターで行われました。 私も報道等で知る以上のことはわからないのですが今のところ順調に経過しているようです。 研究の先頭に立っておられる高橋先生、移植手術を成功させた栗本先生はじめこのプロジェクトに参加されている先生方に心からお祝い申し上げたいと思います。