テーラーメイド治療を目指す神戸三宮の菊地眼科です

コラム集 強度近視の問題点 2020.01

強度近視になると目の組織が前後に引き伸ばされるため、限度を越えてしまうと視機能に悪影響を及ぼす変化が起こります。 代表的な変化が網脈絡膜委縮と視神経乳頭低形成です。 また、ラグビーボールのように目が細長くなりすぎるとスムーズに目を動かすことができなくなり、目が内側(鼻側)に偏ったまま動きにくくなることもまれにですが起こります。 これを強度近視による固定内斜視といいます。


・網脈絡膜委縮

図1のように目の奥は4層構造になっていて、内側から網膜、網膜色素上皮(とても薄い)、脈絡膜、強膜と呼ばれています(図1)。 それぞれが視機能維持に重要な組織ですが、薄く引き伸ばされすぎると、網膜、網膜色素上皮、脈絡膜が萎縮を起こしてしまいます。 この状態が網脈絡膜委縮です。 網膜はほとんど透明で、眼底写真全体の色合いは主に網膜の下にある網膜色素上皮とさらにその下にある脈絡膜の色を見ています。 正常の眼底は網膜色素上皮層の色がメインになるので少しオレンジ色がかっています(図2)。 近視が強くなりすぎて網膜色素上皮層が薄くなるとその下にある脈絡膜の血管がはっきり見えるようになります(図3白矢印)。 さらに脈絡膜すら薄くなってしまうといちばん外側にある強膜(白目)までが透けて見えてしまいます(図3黒矢印)。
フィルムに当たる網膜の中心部、つまり見たいものが映っている一番大事なところを黄斑部といいます(図1)。 このような強い委縮でも黄斑部外であれば、視機能は比較的良好に保たれますが、 黄斑部におこると残念ながらその程度に応じた視機能低下が起こります。 図4下が黄斑部の正常のOCT画像ですが、網脈絡膜委縮が黄斑部に起こると正常な組織構造が維持できていないことがわかります(図4上)。


・視神経乳頭低形成

強度近視は緑内障発症のリスクになります。 緑内障は網膜に映っている情報を脳に伝える視神経が障害される病気です。 眼圧が高いことが一番のリスクなので、治療の原則は眼圧を下げることです。 ところが日本の緑内障患者さんの6-7割は無治療でも正常上限値を超えない正常眼圧緑内障です。 欧米ではほとんどないタイプの緑内障です。強度近視の緑内障患者さんの多くははこの正常眼圧緑内障なのです。
視神経は網膜の情報を脳に伝えるために視神経乳頭から眼外に出ます。 通常は丸い穴(図2矢印))なのですが、強度近視だと引っ張り伸ばされてひずんだ形(視神経乳頭低形成)になることがあります(図3同じ矢印)。 低形成による機械的・慢性的なストレスが視神経を障害し、緑内障発症のリスクを上げると考えられています。 ただ低形成を治療する方法はないため、正常範囲内でもさらに眼圧を下げ視神経のストレスを少しでも軽減するという通常の治療に頼らざるを得ません。