オーダーメード治療を目指す神戸三宮の菊地眼科です

コラム集 角膜と最近の治療戦略 2014.05

目の外に広がる景色は角膜、水晶体などを通ってフィルムにあたる網膜に映ります(図1)。 そのため目の中に何らかの光をさえぎるような濁りがあると視力低下の原因となります。 一番多い原因は水晶体というレンズにあたる組織が濁ってくる白内障です。 その次の原因としては角膜の濁りがあります。 角膜は目の表面にある透明な膜で、大きく分けて3層構造になっています。 表面側から角膜上皮層、角膜実質、そして角膜内皮層です(図1)。 角膜は中央付近で約0.5mm程度の厚みでそのほとんどが角膜実質です。 角膜上皮層、角膜内皮層ともにとても薄く0.05mm程度ですが、角膜実質の透明度を保つためにとても大切な役目を果たしています。

  • 角膜上皮層
  • 角膜上皮層はホコリやゴミあるいは細菌などをブロックする働きがあります。 これらの刺激以外にもアレルギーやドライアイなどで傷つくことも多いため、角膜上皮層の新陳代謝はとても活発です。 角膜実質に近いところからどんどん新しい上皮細胞が作られ、表面近くにある古い細胞と入れ替わることでできるだけ早く傷を治すのです。 ところが病気あるいはケガなどでこの活発な新陳代謝が損なわれるような状態になると、目の表面の保護が出来ないばかりか、 その下にある角膜実質もダメージを受け透明度を保てなくなってしまいます。

    このような角膜上皮側のトラブルに対する治療として行われているものの1つに自己培養口腔粘膜上皮シート移植術というのがあります。 自分の口の中の粘膜を採取してそれを人工的に培養し、シート上にしたものを角膜表面に移植するというものです。 これまでの治療法と比べて痛みの軽減や視力回復の面で良好な成績を上げています。

  • 角膜内皮層
  • 角膜内皮層は角膜の裏打ちをしているような層です(図1)。 この層は角膜上皮層のように何層にも細胞が重なり合っているのではなくたった1層でできています。 図2は角膜内皮層を正面から細胞一つ一つが見えるぐらいの拡大率で撮影した写真です。 丸い粒が1つの角膜内皮細胞で、左側の写真より右側に写っている細胞のほうが概して大きいのがわかります。

    角膜実質のメンテナンスにはとても重要な役目をしていて、栄養や酸素などの供給に加え角膜実質に対する排水ポンプあるいはダムのような役割があります。 角膜内皮側には前房水(図1の前房にたまっている水)があり、これが角膜実質にしみこみすぎないようにする必要があるのです。 でないと角膜実質が水ぶくれになって白く濁ってしまいます。

    角膜内皮層の特徴としては細胞に再生する能力がない、つまり新しい内皮細胞は作られないということです。 そのため障害を受けて細胞が死んで脱落すると1層しかないので内皮層に小さな穴が開いてしまいます(図2矢印)。 これではダムが決壊したようなものなのでこのまま放置するわけにはいきません。 そこで脱落した細胞の周りの細胞が大きくなることによってその穴を埋めてしまうのです(図2右側写真)。 少しぐらいの脱落なら図2の右側写真のように埋め合わせは可能ですが、細胞が大きくなるにも限界があります。ある程度の細胞密度以下になってしまうと、 穴埋めすることが出来ずにダムが決壊するような状態になり、角膜実質が水ぶくれを起こし白く濁ってしまいます。 これを水疱性角膜症といいます。

    治療法は角膜全層移植あるいは角膜内皮層のみの移植などが行われています。 移植手術全体にいえることですが、ドナー(提供者)不足や拒絶反応などいくつかの問題があります。 もともと角膜内皮細胞は分裂・増殖するという能力がないため、内皮細胞を取り出して人工的に培養しようとしてもなかなかうまくいきませんでした。 しかし昨年、京都府立医大のグループが角膜内皮細胞の培養法を確立し、 培養した角膜内皮細胞を前房に注射するだけで視力向上を図るという世界初の臨床試験がスタートして良好な成績を上げているそうです。 目にかかる侵襲も角膜移植術に比べてはるかに少ないため、角膜移植手術に変わる治療法として期待されています。