オーダーメード治療を目指す神戸三宮の菊地眼科です

コラム集 拡張現実(AR)と仮想現実(VR)・非注意性盲目2 2016.09

ポケモンGOというゲームが社会現象になるほど人気があります。 以前からポケモンゲームはあり、ポケモンGOもゲーム内容としては同じ路線ですが、ゲーム機のディスプレイにではなく、 スマホに写っている現実空間にポケモンを投影しゲームを楽しむという画期的なものです。 これは拡張現実(augmented reality,AR)という最新技術を利用しており、現実世界に人工的な情報を加えてまさに現実世界の情報を拡張する技術です。 このゲームは歩き回らないといけないらしく、そもそも歩きスマホ自体が危険な行為なのですがゲームに熱中するあまりいろいろな社会問題も生まれています。 人とぶつかったり、進入禁止区域に侵入したり、危険運転での死亡事故などが起こっています。 外国では侵入者として射殺された人もいたようです。また、ポケモンが出る公園などのスポットに深夜大勢の人が押し掛け、騒音やごみなどの近所迷惑も指摘されています。

その一方で、私が「へぇー」と思ったのが、引きこもりやうつ病で部屋から出られなかった方が、ポケモンGOをプレイしたいがために外に出て歩くようになったという報道です。 部屋に閉じこもっていると昼夜が逆転したり気分も晴れないのでなかなか症状の改善が見込みにくいのです。 外に出て日光に当たったり、歩き回ったりすることで気分転換にもなり生活リズムの改善にもつながります。 また、人との触れ合いが苦痛だった方が、ポケモンが出やすいスポットでゲーム談議ができるようになるなど、薬や精神療法で成しえなかった効果が表れているそうです。 歩き回ることでダイエット効果もあるようなので周囲に迷惑がかからないように安全に楽しんでもらえればと思います。

仮想現実(virtual reality,VR)という技術があります。 これはヘッドマウントディスプレイをつけて現実空間を完全に遮断し、コンピューターが作り出した映像を仮想空間として提示する技術です。 ソニーからVRを利用したゲーム機器が間もなく販売されるなど、今年はVR 元年になるのではと言われています。 VRはどちらかというと部屋でじっとして楽しむものなのでARとは異なり、部屋の中に閉じこもり気味になったり、 長時間仮想現実の世界にいると体がそれに慣れてしまい、今度は現実世界に戻った時にすぐになじめないという困ったことが起こることがあります。 また、乗り物酔いのような症状が出やすく、VRをやめたからといってこれはすぐには回復しません。

さて、ARに話を戻しますが、4年前に書いたコラム「非注意性盲目」を少し改変して掲載します。 広告などゲーム以外にもAR技術が使われている今、もう一度注意喚起したいと思います。

私たちは生活の多くの部分を視覚に頼っています。 では私たちの視覚情報処理はビデオカメラで録画するのと同じことでしょうか? つまり目の前にある風景や動きをすべてとらえて意識しているのでしょうか?その答えは「No」です。 人間の脳で処理できる情報量には限りがあるため、視覚から得られる情報を必要に応じて取捨選択して生活しています。

たとえば、マジックのトリックのいくつかにはこの「選択的注意」という特性が利用されています。 つまり、人が同時に注意を向けられる対象はそれほど多くないため、トリックを見破るための重要な視覚情報が意図的に操作され隠されていても、 あたかも見て感じているものがすべてのような思いこみを引き起こすのです。

YouTubeにある「選択的注意」に関する動画のリンクを張ります。 白い服を着たチームのパスの回数をしっかり数えてください。最後までしっかり数え終えてから次に進んでください。

https://youtu.be/vJG698U2Mvo 

これは有名な動画で、パスの回数を集中して数えているとゴリラが登場しても気付かないというものです。 白のチームのパス回数を「選択的に注意して」数えている間は、数えること自体が視覚情報処理のほとんどすべてになってしまっているのです。 このように、選んだ対象に注意が向いてしまうとその周囲に起こっている変化や動きに対する印象が薄く、それに対する反応が出来なくなったり遅れたりします。 これを「選択的注意」と関連する概念として「非注意性盲目」と呼ばれています。 文字通り「見えていない」ことに主眼を置いた概念です。

注意の対象が聴覚や触覚など視覚以外でも当てはまるのですが、この「非注意性盲目」が交通事故との関連で問題になっています。 自動車の運転中に携帯電話を使用していると追突や歩行者に気づかずにはねるといった事故を起こしやすくなることは知られています。 ハンズフリーなら大丈夫だと思っている方もおられると思いますが、携帯電話を使用しながら運転するとハンズフリーであろうとなかろうと事故を起こしやすいのです。 その一方でラジオを聞いたり同乗者と会話したりというのはあまり影響しないそうです。 つまり、運転が主で聞き流すことが出来る会話やラジオ番組を楽しむ状況と、 ややもすると運転より携帯電話の操作や会話に気をとられてしまう状況とでは、同じようなことをしているにもかかわらず「非注意性盲目」に陥っているかどうかが違ってくるのです。 また、携帯電話使用中は道路周囲の看板や広告の内容を通常運転するときに比べてあまり覚えておらず、道路標識の見落としにもつながりかねないという結果も出ています。 もちろん携帯操作中の脇見運転は論外です。くれぐれも運転中の携帯電話使用はお控えください。

さらに、これまであまり取り上げられてこなかったヘッドホンを装用している歩行者の交通事故リスクについてのレポートがでました。 ヘッドホンをつけて音楽などを聴きながら町中を歩いている人が交通事故に遭う頻度が2004年から2011年にかけて3倍に増えたそうです。 単純にクラクションや警報に気づかないだけではなく、音楽を聴くことに集中して、視覚情報に注意を払うことが出来ない「非注意性盲目」の状態が問題になっているようです。 ヘッドホンをしながらジョギングしている方や自転車通勤されている方をよく見かけますが、危ないので「走る」か「聞く」かどちらかにした方が良いと思います。