オーダーメード治療を目指す神戸三宮の菊地眼科です

視機能再生への挑戦 2014.01

以前のコラムでもお話ししましたように黄斑変性症に対してiPS細胞を用いた網膜色素上皮移植がいよいよ行われようとしています。 まずはこれが安全な治療法であるという確認からのスタートになります。治療としての実用化にはまだまだ多くの課題があるとは思うのですが ぜひ順調な滑り出しとなるよう期待しています。プロジェクトのリーダーである高橋先生や手術を担 当される栗本先生をよく存じ上げているだけに本当にワクワクしています。

その一方で、このような再生医療とはまた違う方法を用いて視覚を取り戻そうという試みが行われています。 視覚情報は細胞間の電気信号として伝達・処理されています。これは脳にある神経細胞だけでなく、 目の中でも視細胞など神経細胞以外の細胞でも同じことです。そこでITテクノロジーの進化を利用し、 この電気信号の伝達を支援し視機能回復につなげようとするものです。 眼鏡型のカメラをつけて、カメラからの電気信号を脳に埋めた電極で脳を直接刺激するというタイプがあります。 また、視神経に電極を埋め込むタイプもあるようですが、今開発が進んで臨床応用が期待されているのはいわゆる 「人工網膜」といわれるタイプです。光に反応してそれを電気信号に変えるシート状の装置を目の奥にある網膜(図1)付近に設置して、 その電気刺激を視神経に伝えてもらおうという試みです。 人工網膜といっても大きく分けて3種類あり、網膜上に設置するタイプ(図2)、網膜下に設置して視細胞の代用を試みるタイプ(図3)、 脈絡膜という網膜の下にある組織に設置するタイプ(図4)で、それぞれに一長一短があります。

ではこれら人工の視覚システムを使うとどのように見えるのでしょうか。 原理的に光を感受する点の集まりとしてしか画像を再現できません。 そのため、点が小さく密集しているほど解像度が上がり小さなものまで見えるようになります。 カメラの画素数で画質が変わるのと同じ理由です。ただ、現時点では白黒でしか表現できず、 たくさんの画素数をコントロールするのは技術的に難しいため、 残念ながら上手くいっても目の前にある大きな物体の輪郭がわかるかどうかというレベルのようです。 それでも危険回避ができたり大きな文字なら読めたりする可能性があり、視覚障害が高度の方であれば有効な治療法と思いますし、 今後のITの発達によりより精細な視覚を提供できる可能性は秘めています。

iPS細胞や人工網膜に限らず、新しい治療法が応用されるためにはいくつかの段階を経る必要があります。 まずは機械や細胞を試作する段階、動物に応用して安全性や有効性を確認する段階、人に対して応用し安全性や有効性を確認す る段階(臨床試験)、安全や有効性が確認でき治療法として認可される段階(日本なら厚生労働省の承認)、 さらに有効性や安全性を高めていく段階などがあります。iPS細胞による再生医療はこれから臨床試験が始まろうとしている段階で 、人工網膜のほどんどは臨床試験前、あるいは臨床試験中ですが、アメリカのFDA(日本の厚労省)の承認待ちまで来 ているものもあるようです。

このようないろいろなアプローチで「視覚を失った方へ光を」「視力低下をできる限り回復を」という試みが進行しています。 私が医師になったころには夢物語だったことが、まだまだ緒についたところですが現実になろうとしています。