オーダーメード治療を目指す神戸三宮の菊地眼科です

コラム集  VDT症候群 20010.06

最近あまりいわれなくなりましたが(と感じるのは私だけ?)VDT症候群というものがあります。VDT作業とは ディスプレイ、キーボード等により構成されるVDT(Visual Display Terminals)を使用した作業を言います。VDT作業を長時間休憩なしにしかも長期間続けるとVDT症候群になる方が増えてきます。1997年頃、ちょうど私が京都大学の助手をしていた頃にこのVDT症候群の一部であるVDT眼症について書いたことがありました。話はそれますが、助手という役職は今では助教というそうです。医学部では助手というポジションは上役の「猫の手」のような存在でした。だから置かれている立場を適切に表現した言葉と個人的には思っておりました。たぶん、表現を変えただけで今も変わってはいないと思いますが・・・。また、当時はVDT症候群をテクノストレス症候群とも呼んでいました。テクノ~という表現は今となってはとても古く感じられ、私などはYMO(ご存じですか?)を思い出してしまいます。それはともかく、当時の原稿が残っていたのでそのまま以下(青字の部分)に記します。

(1)VDT作業と通常のデスクワークの違い

・ CRT画面にはちらつきの問題がある。CRT上の像は管の全面内側にコーティングされた蛍光物質に電子ビームが当たることにより発光したドットで形成されるため、書類を見ているのと環境が違う。

・ CRTを近距離から長時間注視したり、これと距離の異なるキーボードや文章を高頻度に視線移動したりするため、調節、眼球運動、頭部の運動が頻回に起きる。しかもCRTは一般に暗く、机上の書類は明るいので明順応と暗順応の繰り返しを要求される。

・ 天井または近傍のスタンドによる照明光が視野に入りやすい。あるいは照明の画面への映り込み。

・ まばたきのさらなる減少

(2)VDT作業に伴う眼症状(VDT眼症)にはどのようなものがあるのか

***眼精疲労(疲れ目)とは?***

視作業を続けることにより眼部、鼻根部あるいは前額部の不快感、圧迫感、頭痛、視力低下、めまい、吐き気などの症状を引き起こす状態。眼精疲労は気持ちよく見える状態を越えたときに生理的に生じる。生理的(正常)疲労は急性に現れ休息によって速やかに、完全に回復する疲労。病的疲労は慢性に移行した蓄積疲労で、休息によって回復せず、疲労の残余が次々に蓄積され、作業負荷がないにもかかわらず、疲労症状を強く自覚するもの。VDT作業者にはこの病的疲労を訴える者が多い。眼精疲労はその原因によりいくつかに分類される。

① 屈折異常や調節異常の際に起こる調節性眼精疲労

② 斜位や輻湊障害などの際に生じる筋性眼精疲労

③ 眼科、耳鼻科、内科、婦人科などの基礎疾患に起因する症候性眼精疲労

④ 左右眼によって同一物体が違った大きさや形に感じる不等像性眼精疲労

⑤ ヒステリーや心身症などの際に起こる神経性眼精疲労

(3)VDT眼症の関係因子

・ 視環境要因(ディスプレイ、照明など)

・ 作業姿勢要因(机、椅子など)

・ 作業環境要因(温湿度、空調、騒音など

・ 作業設計要因(職務設計、休憩時間など)

・ 個人的要因(年齢、健康状態、適性、性格など)

(4)VDT眼症の防止

1 VDTの改善

・ ハードの改善

・ 輝度・コントラストの調整

・ CRT画面からの反射光の抑制;ガラス表面のコーティング、反射防止フィルターの使用

2 作業環境の改善

・ 採光と設置位置

・ 照明

・ 作業姿勢・時間

・ 空調と騒音

3 適切な休憩

連続VDT作業1時間ごとに10ー15分の作業休止をとる以外に1連続作業時間において1ー2回程度の小休止(1ー2分程度の作業休止)をとる。(VDT作業のための労働衛生上の指針より)眼科的には約20分間隔で数分間遠方を見ることが、目の生理的疲労を速やかに除き、疲労を残さずに能率良く快適に仕事を継続できる。作業時間は年齢などにもよるが一般的には1日4時間以内が望ましい。

4 適正なコンタクトあるいは眼鏡の装用

なぜ当時これを書いたかといいますと、パソコンを使う作業が急激に増えたことでVDT作業による弊害が社会的にも問題になったからです。久しぶりに読み返すと書いてあることは今でも至極もっともなことばかりです。CRTが液晶画面になったことと、大画面になり視線の移動がさらに激しくなったことが今と少し違うところでしょうか。また、VDT眼症の原因として今ほどはドライアイが注目されていなかったため、その記載が少なくなっています。

当時と比べ、パソコン、携帯、テレビなど液晶画面を見続ける作業が格段に増えたにもかかわらず、あまり話題になることはありません。先日のコラムでも書いたように日常生活の一部になってしまい、それが当たり前で目を酷使して生活しているという意識がなくなってしまっているのです。その悪影響は多岐にわたり人によっては生活に深刻な影響をもたらすことがあります。目以外のことでいえば

運動機能(整形外科)の症状として

腱鞘炎、手根管症候群、頚肩腕症候群、頚椎椎間板ヘルニア、 肘部管症候群、上腕骨上顆炎、胸郭出口症候群、など

精神神経の症状として

頭痛、全身倦怠感、食欲不振、イライラ、抑うつ症状、不眠、無気力、など

そのほかにもなりうる疾患として

自立神経失調症、 生理不順、不妊症などまで指摘されています。

少しでいいですから目を休めることを意識してみてください。たとえば今私はパソコンに向かってこの原稿を書いていますが、画面からちょっと目をはずすして少し遠くを見ると目の奥が少し楽になるような感じがします。目に意識を集中するとはっきりと皆さんも実感できると思います

頭痛、倦怠感、まぶしさや目の痛みがあり部屋の外に出られなくなり「うつ病」と診断された方が中央市民病院の眼科外来に来られたことがありました。ひどいドライアイがある以外には異常がなく、諸症状の原因がどうもドライアイのような印象があったため、ドライアイの治療に通っていただきました。1年ぐらいかかりましたが目以外の症状もほとんどなくなり元の生活に戻ることができました。

仕事は簡単に休むことはできません。そんなことになるまで目(と体と心)を追いつめる前に、日々のちょっとしたことでいたわってあげることが可能です。是非上記のことやコラムドライアイを参考にして目の健康を意識してみてください。