オーダーメード治療を目指す神戸三宮の菊地眼科です

コラム集  最近の活動2011年度と「宇宙にいったら眼は・・・」  2012.03

以前よりは執筆・講演活動の頻度は減りましたが、2月25日に、眼科医を対象とした「第9回兵庫県オフサルミックセミナー」 に講演者の一人として招かれて神経眼科関連のお話しをしてきました。久しぶりの講演だったので少し緊張しました。

書籍としては「専門医のための眼科診療クオリファイ7 視神経疾患のすべて」 中山書店 2011.8 の分担執筆をしました。

執筆・講演活動をするにあたっては、最新の知見をしっかり把握し、正確な知識の上で行わないといけません。 これは実際の診療にも役立つので私にとっては一石二鳥です。いろいろな調べ物をしたり、文献を見たりしているうちに興味深い論文があったので紹介しようと思います。 去年の11月に発表された、「宇宙に長期間滞在すると眼はどうなるか」というテーマの論文です。

宇宙に6ヶ月間滞在すると

・視神経乳頭浮腫(視神経が腫れる)

・眼球の扁平化

・脈絡膜皺襞(しわ)

・遠視化

などが起こりやすいそうです 。原因ははっきりしてないのですがどうも頭蓋内圧(頭の中の圧力)が無重力で高くなってそれが影響しているのではないかということです。 どうして高くなるかは少し難しいのでおいておくとして、確かに上記のいずれの症状もこれで説明することができます。 眼は図1のように視神経で脳とつながっていているため頭蓋内圧の変動は眼のコンディション維持に大きな影響を持っているからです。 視神経や血管の出入り口である視神経乳頭というところが圧に押されて腫れてきます(視神経乳頭浮腫、図2)。 眼球の扁平化は論文を見ているとまるで眼がタマネギのような形になっている写真が載っていました(図2)。脈絡膜のしわは眼球の変形や圧力の変化で起こりえますし、遠視化は水晶体(レンズ)と網膜(フィルム)との距離が変化することで起こるのでしょう。 さらにこのような状態は、地球に帰還してもしばらくの間続くこともあるようです。

血圧などとは違い、頭蓋内圧や眼圧など少しの変化で大きな影響の出るデリケートなシステムでは重力が大きく影響する可能性がこの論文では示唆されていました。このような眼の変化が数ヶ月という単位での変化で、帰還後にはもとに戻るのであればそんなに問題視する話ではありません。しかしながら宇宙ステーションや月に何十年もすむことが出来るような社会になると遠視化以外は視力に不可逆性の悪影響が出てくる可能性があります。

宇宙滞在中に上記のような変化が起これば、緑内障にも影響が及ぶことになるでしょう。眼科学会としてコンセンサスが得られているわけではないのですが、頭蓋内圧と眼圧、あるいは緑内障との関連を指摘する報告もあります。 将来、緑内障患者さんが宇宙に滞在するときはどのようなことに注意すればいいのでしょうか?まだまだ先のこととはいえ興味あるテーマです。