オーダーメード治療を目指す神戸三宮の菊地眼科です

コラム集 学校保健統計調査と眼 2015.03

学校保健統計調査という文部科学省が毎年出している統計があります。 身長・体重など体格に関するものや喘息や虫歯など病気に関するデータに加え、裸眼視力が1.0未満の者(裸眼視力不良者)の割合という統計項目があります。 図のように昭和54年から統計がとり続けられております。 もちろん裸眼視力が低下する原因は近視だけでなく、遠視や乱視といった別の屈折異常や、目の病気で裸眼視力だけでなく矯正視力も低下している人たちが含まれています。 ただ、そういう学童の割合は非常に低く、実際には裸眼視力不良者のほとんどは近視によるものと考えられています。 このグラフを見ると、どの年齢層でも近視になっている児童の割合が年々少しづつ増えており、 平成25年度では小学生の30%、中学生の50%、高校生の65%が近視だということが示されているのです。

この図を注意深く見ると私には2つ興味深い点があります。

1つめは平成7年ごろからしばらくの間、近視になる児童の割合が増加傾向を示さず年度によってはかえって減少傾向を示していることです。 しかもこれは小学校以上どの年齢層でも同じ傾向を示しています。 ちょうどこの時期はいわゆる「ゆとり教育」が行われていた時期に一致します。ひょっとしたらゆとり教育で勉強時間が減り、それが近視化を軽減したのかもしれません。

2つめは高校生の近視割合が最近2,3年で急激に増えていることです。 これは携帯電話からスマホに切り替わった時期に一致しています。 特に高校生のスマホ利用率が急激に増加した時期に一致しており、スマホの長時間使用が高校生の近視化を促進してしまったのかもしれません。 これらはあくまでもこのグラフから私が感じた印象で、科学的根拠があるわけではありません。

このような疑問に対して検討している論文(日眼会誌118巻2号104-110)がありました。 それによるとゆとり教育と近視化の歯止めは統計学的に因果関係があるとまでは言えないそうです。 この学校保健統計調査は都道府県別にもデータが出ており、ほかにもいくつか興味深い検討が行われています。 それによると高身長の県ほど裸眼視力不良者の割合が高い、日照時間が長いほど裸眼視力不良者の割合が低いという結果だそうです。 なぜそうなるかははっきりしたことはわからないようですが、 日照時間あるいは昼間に太陽光を浴びる活動時間が長いと近視が進行しにくいという傾向はほかの報告でもあるそうです。 パソコン作業、ゲームなどの影響も検討されていましたが今回ははっきりした因果関係があるとはいえなかったそうですが、 その一方で因果関係があるという報告もあります。 また、夜間暗いところでのパソコンやスマホの使用、特に就寝前は睡眠や生活リズムに悪影響を与える可能性が示唆されています。 学童期では電子機器類の使用には気を配ったほうがいいと思います。