オーダーメード治療を目指す神戸三宮の菊地眼科です

コラム集 学校保健と色覚異常 2015.09

平成26年に学校保健法が一部改正され、平成28年度からは学校での色覚検査を積極的に取り組むようにと文部科学省から通達がありました。

先天性色覚異常は日本人男性の5%、女性の0.2%、男女差が25:1と圧倒的に男性に多く、しかも男性20人に1人という決してまれではない問題なのです。 視力や視野などほかの視機能に異常がないため、軽度の方は日常生活に困ることはほとんどなく、 中等度以上の方でも色の混乱を自覚してそれに気をつければ基本的には問題ありません。

私たちが子供の頃は確か小学4年生に色覚検査を全員必ず受けていましたが、 学校保健法の改正により、平成15年から色覚検査が必須項目から削除されてしまいました。 してはいけないということではなかったようですが、色覚検査をするなら保護者の同意を得て、 教職員が色覚異常に対する正確な知識を備えることとの通達が出ていました。 ここまで色覚検査のハードルをあげてしまうと当然のことながら検診で色覚検査を受ける児童はいなくなってしまいました。

必須項目から削除された理由としては

・先天的で治らないデリケートな問題なのに、学校で児童のプライバシーに配慮しながら検査する環境が整わない。 そのため色覚異常を指摘された児童がいじめを受けたり、結婚や就職で差別されるのを防ぐ。

・色覚異常による職業制限を撤廃し、職業選択あるいは就職時のハンデとならない社会を目指し各方面に指導するので、 色覚検査は必須でなくてよいはずである。

だったようです。

以前は色覚異常の方に対する職業制限がそれなりに厳しかったのですが、現在は確かにかなり緩和されてはいます。 医学部もその一つで、今でこそ軽度の色覚異常であれば門戸を開いていますが、 私が医学部を受験した頃は色覚異常のある受験生を受け入れていない医学部が多くありました。 医学部志望の友人がたまたま色覚異常があり、色覚異常でも受験資格のある大学を一生懸命探していたのを記憶しています。 このように自分にどの程度の色覚異常があるとわかっていれば、 それがハンデにならない業種あるいはそれを受け入れてくれる大学を選択するという現実的な判断があらかじめできます。 ところが小学校での色覚検査を受けることなく成人した方々(1993年生まれ~)が、自分が色覚異常があることを知らず、 就職や就学に際して門前払いを受けるといった深刻な問題が出てきました。 色覚異常があるとわかった中・高校生の約半分は本人が色覚異常に気付いていないという結果も出ています。

残念ながら色覚異常が問題となる職業があることは事実です。 例えば電気工事の配線の色の識別、カメラマンなど写真関係の仕事、美容師、デザイナーなどです。 肉の焼き色(焼き加減)なども色覚異常に影響されることがあります。 また、今でも色覚異常の有無を採用基準の一つとしている職業があります。 例えばパイロットをはじめとする航空関連業種、船舶・鉄道関連、自衛官、消防士などです。 これらの業種でも職種によっては軽度色覚異常であれば就業が認められています。

このように自分に色覚異常があるのかないのか、あればどの程度なのかを知っておくことはその人の将来に対して絶対必要なことなのですが、 どうして小学校での色覚検査を実質廃止してしまったのか私には理解できません。 教育の現場でも色覚検査を行わないことで、教職員の色覚異常への関心や配慮が薄れ、 色覚異常のある学童に対する心無い言動が報告されているのも事実です。

ようやく問題に気づいた文部科学省は「色覚検査に積極的に取り組むように」とはいってますが、 どのように取り組むかといえば、色覚検査実施学年の児童に色覚検査希望申込書を配布し、希望した学童にのみ行うというものです。 これでは必須項目に戻ったというには程遠いのですが、私は異常がないことを確認するだけでも大変重要な検査だと思っています。 お手元に申込書が届きましたらぜひお子様に検査を受けさせてあげてください。